学生時代の友人が帰郷することになり、久しぶりに友人と顔を合わせました。「独立して、個人で仕事しているんでしょう?」と声を掛けてきます。特に、独立したと周りに言いふらしていないので、「そうなの? どんな仕事をしているの?」と興味津々で聞いてくる人もいましたが、facebookで「友達」になっている人は、近況を見て知っていると続けます。「朝から晩まで働いて、土日も仕事してて、正直俺だったら耐えられないと思うよ」。そう言われて首を傾げながら「思ったことをすぐに反映させて動けるから、自由だよ」と答えます。「とは言っても、色々大変でしょう?」「自由は不自由ってヤツで」と、喧々諤々とやり取りを交わします。
自発的な判断や、成果に直結することがやる気に繋がりやすいのは本当のことで、『日本一社員がしあわせな会社のヘンなきまり』に出てくる未来工業株式会社でも、社員が自発的に改善提案をする制度を設けている。一見面倒そうな制度ですが、自ら考え、実行することが許可されている改善は、事前に承諾を得る必要もなく、中小零細企業の強みでもある機動性を多いに発揮している。また、実際の改善・実行を行なうのは現場レベルの担当者が多く、お客様から言われた要望への素早い対応や、目の前の現場作業の潜在的な危険についてもすぐさま対応することができます。内容如何では、お客様や従業員にも喜ばれるようになり、顧客満足にも繋がるため、本人も「やってよかった」「ここまで自由にさせてくれる会社は他にない」と、やる気にも繋がると書かれています。
「うちの会社はそんなに自由にやらせてくれないしね。この前もさあ……」。
そんなことを考えているうちに、目の前は会社の愚痴談義に花が咲いています。

翌日、どうしてもその日中に片付けたい仕事の、自宅作業の部分は一段落ついたので気分転換にノートPCを持ち出して近所のカフェに向かいます。カフェに入ると、平日の日中にも関わらずドリンクを片手にPCと向かい合う人が何人も揃って並んでいます。今流行のノマドワーカーの人々なのでしょう。nomadとは、英語で遊牧民を示す言葉です。オフィスを持たずに点々としながら仕事をしている人のことを、ノマドワーカーといいます。このような働き方が一般的になったのは、デジタルデバイスの発展が大きな理由として挙げられます。ウルトラブックをはじめとしたノートPCの軽量化や、iPadなどのタブレットの普及、通信事業各社によるWi-Fiなどの無線インターネット接続環境の充実により、固定オフィス以外でも滞りなく仕事ができる環境に変わってきました。『iPadノマド仕事術』によると、iPadの出現で、更にノマドワークがしやすくなったと書かれています。10時間も継続して使うことができるバッテリーに、3G回線対応の端末ということで、カフェ側にコンセントの有無やWi-Fiの有無を問わずに入店できるようになりました。いつでもインターネットに繋がる環境下で、Skypeで会話をしながらdropboxなどのクラウドツールで資料を共有してミーティングするなど、クライアントとの打ち合わせですら直接顔を合わせなくても済むような形に変わってきています。

帰りに立ち寄った書店で、ふと、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』という書籍が目に入りました。書籍には、「ものが見えるようになるには仮説を立てることである。そしてその仮説は、関心や疑問から始まる」と書かれています。クライアント企業で、Microsoft Officeの研修を行なったときに、Excelの関数やAccessの機能について説明すると、その翌週には「試してみたらできるようになった」という声が上がり、他の仕事にも早速その知識が反映されていることをよく見かけます。何かひとつのことができるようになったことで、他の業務にも当てはめることができないかと興味を持ち、試すことで、他業務の改善に役立てているケースは非常に多いです。すぐに活用できないとしても、何度か受講生の方々の実際の作業を見させていただいて、「こうやって改善できるのでは?」というお話をすると、そのうち受講生の方から「別の事務作業も、もっと良いやり方はないのですか?」と質問してくるようになります。今までの無難なやり方を続けるのではなく、「何かできるかもしれない」と思うようになったのでしょう。仮説・検証までは至らなくとも、疑問を持つようになるには、今の仕事で改善できるポイントを2〜3回指摘されると、「もしかして、もっと良いやり方があるのではないか」と思い当たるようになります。

「うちくらいの規模の会社では、そこまでのIT投資は必要ないよ。手書きで伝票を作ったって、今まで間に合ってるんだから」。確かに、IT導入を目的としてしまって、かえって作業が煩雑になってしまうことも多々見受けられます。問題が顕在化していない以上、ITは不要だと思うこともあるかと思います。しかし、IT導入の本当のメリットは、単なる事務作業時間短縮ではありません。日常の業務量からすると、そのような改善で見られる効果など微々たるものかもしれませんが、「あんなに時間をかけてやっていた作業が、ボタンひとつ押すだけで簡単に終わってしまうようになった」という驚きを体感し、今行なっている仕事そのものが、本当にベストな形なのかを考えるきっかけになるということです。「そんなこと、社員にやらせたら面倒臭がって文句を言うだろう。ただでさえ協力的ではないのに……」と評する経営者の方もいらっしゃいますが、自分の作業を楽にするための改善には、案外労を惜しまないというのが実感です。
現場レベルの小さな改善の積み重ねは、他社には真似できない差別化のもとになります。改善の視点を手に入れられることこそ、IT化で享受できる最大のメリットと言えるのではないでしょうか。